オリビエートの坂の上

観劇のメモを投げ込む予定です

喪失の世界(舞台 鬼滅の刃 感想)

 
1/23(木)夜 舞台 鬼滅の刃

 

 

概観

真面目、超真面目!!!!
末満さんの原作準拠系2.5は初めて見たんですが、神経質といってもいいくらい原作に忠実。ここまでやってダメならもうどうしようもなくない?というラインまで原作に沿ってるなと個人的には思いました。原作を演劇に「起こしてる」感じですね(文字起こしとかの起こし)。
私はけっこう演出家が再解釈したりするのが好きなので(原作読解力と構成力があること前提ではありますが)、もっと柔軟にやってもいいのにな~と思ったくらいです。
まあでもクライアントのオーダーに応えるという点ではこの塩梅がベストとの判断なんでしょうね。自分のやりたいことはオリジナルでやるんで、という方針の通り*1

ほんと厳密に忠実に作ってあるので、逆に原作通りの絵面から離れるポイントが来ると途端にブワーっと末満さんのにおいがしてきて、それが楽しくて心の中で笑顔になりました。
演出の物理的なやり方でも演出家の味は出ますが、こういう(おそらく意図されずに出る)その人固有のにおいこそ面白いとこだなと思います。

 

各シーンについて

 

先に全体構成の話をすると、原作の都合で仕方ないんですが一幕がだるめですね。でも一幕終盤でちょっと盛り返して幕間が入り、二幕の盛り上げがとても良かったので終演後の気持ちは晴れやか。楽しかった!!って感じです。

しょっぱな幕開けがセンター無惨様でテンション上がりました。白い衣装のダンサーさんの演出、めっちゃ好きですね。白色であるのが最高。
ミュージカルでいう世界観説明導入歌にあたるとこで「ここは鬼の世界~」って歌われたので(そんなこと歌ってない)(歌詞はずっと原作準拠です)、そのシビアさにぞっとしてテンション上がりながらのスタート。

一幕は原作どおりナレーションが多すぎて(ナレーションというか、漫画で吹き出しじゃなくて四角の枠?に入ってる心情とかの説明文)、けっこう厳しいなと思いました。もちろん考えた上で原作そのままにしたんだろうけど、ここはセリフに書き直すなり、セリフと録音のナレーション混合にするなりしたほうがよかった気がします。
そしてさらっと家族が死んでいる。ハ?となるけどこれは原作でもそうなのでいかんともしがたいところ。

その微妙なテンションのまま冨岡さん登場。印象付けなければならない場面である生殺与奪セリフがインパクトに欠けた感じ。他のセリフ聴くかぎり下手な方ではないと思うんですが(アクションの身のこなしもよかった)、長台詞はやっぱ難しいんですかね。で、全部セリフだと場がもたないので歌入れるのはナイスアシストなんですが、笑止千万は何回も歌われると笑うのでやめてください。
禰豆子ちゃんは背負われてる時から動きも唸り声もめちゃめちゃ良くて、冨岡さんに立ちふさがったとことかブワッと涙腺がゆるんでしまいました。華のある動きをされる方だなと思います。

修行も引き続きナレーションなのでうーんという感じですね。ここは日記調だし原作のままでいいので、バランス考えてやっぱ冒頭をセリフでやるほうがよかったのでは(以下略)。
錆兎はかっこよくて気迫もあり、真菰も声が通っていい感じ。依然流れ的な盛り上がりには欠けるのですが、鱗滝さんの方が上手いのもあり、飽きずには見られるかなという印象。
しかし家族を惨殺されて妹が鬼になり冨岡さんに責められ鱗滝さんに怒られ錆兎にぼこぼこにされというコンボ、こうして通しでみると普通につらすぎて、わりと終始ウッ……となってました。

修行終わって最終選別、藤重山の説明の歌は雰囲気あって好きです。産屋敷の子供たちの得体の知れなさが良い。初回バトルシーンはダイナミックな演出するの難しそうだなと思いました。

で、微妙に起伏に欠ける感じのままで浅草へ。
浅草の歌、一番良かったかもしれないです。都会だ!って炭次郎が思った気持ちのイメージみたいなものが伝わって素敵。
そして無惨様の登場!!敵ボス出てくるとやっぱ盛り上がりますよね。というかヒデ様がこういう役似合いすぎて、俺の顔は青白いかソングから全体の流れがようやくエンジンかかってきたな!って感じでした。
そのまま幕間前の曲へ。このメンツで鬼は無惨だけなのに、この存在感。やっぱヒデ様のこういう役は最高だな!!


二幕、登場人物も増えて流れがようやく加速。
珠世さんの方は歌がきれい。ほかのキャラの歌だとわりと音楽がバーンと主張してその中で歌わせるのに対し、珠世さんは歌のほうが前面に出されてたのでなるほどなと思いました。愈史郎さんはリアル愈史郎さん。
朱沙丸(手毬の鬼)と矢琶羽(矢印の鬼)は雰囲気が原作ぽくてよかったです。バトルシーンも毬とか動く矢印とかの要素があって華やか。矢印を映像だけでなくリボンでやるの好きです。黒子さんが出てくるのも楽しい。名前を出してはいけない無惨のくだり、毬を持つ童女と無惨の残酷さの対比がぞわっと恐ろしくてショッキング。舞台を横切っていくだけで存在感と空気感がある無惨、やっぱいいなあ。
炭次郎と禰豆子の、俺たちは離れ離れになりませんのくだりはじんとしました。原作でも好きなシーンなので、丁寧に演じられてて嬉しかったです。小林さんの炭次郎はこういうシーンが良く似合いますね。

そして善逸!!!!善逸が出てきた瞬間に次元が三から二に急速吸引される面白さ。とはいえ単に二次元ぽいというだけでなく、間が絶妙で善逸がなにかやるたびに笑いが聞こえる。プロのやる2次元キャラ的キャラ、見ごたえありました。
鼓屋敷バトルはこれまた楽しかったです。わざわざ響凱(鼓の鬼)を頭手前にして台に寝かせて部屋が90度回転してるのを表してるのとか、そこまでやるんだなって感じでしたね。とりあえず背景映像で部屋回しとけば普通に立たせといてもそれらしくなるのに、演出の気合を感じました。部屋がひっくり返る表現で炭次郎を宙返りさせるのもオオーーー!となるし、こういう演出をわざわざきっちり入れてくるの、こだわりを感じて大好きです。
響凱の回想とか原稿踏む踏まないの下りもあって結構ボリュームのあるパートですが、まとめ方も端的で見事。
伊之助もブワーーーッと走ってくるよい伊之助だったな。こうやって実際にみると被り物してる人間って存在感がすごいある。
あと、善逸の霹靂一閃の演出すごく好きでした!!!女性の高音のコーラスが、高いところから鋭角で落ちるみたいな稲妻の視覚的なイメージにすごく合う。見せ場にガツッと尺割いて、大ゴマ演出やるの最高だった。
鼓屋敷編、正一くんがいい味出してましたね。アニメっぽい正一くんでなかなか絶妙だった。
で、藤の家紋の家での休養→出発して那田蜘蛛山に向かうところでエンド。綺麗な終わり方でした。

 

演出所感

歌が多いんでミュージカルではみたいなこと言われてましたが、ミュージカルではなく演出手法として歌がたくさん使われてるって感じでした。
歌のおかげで、説明バトル説明バトルみたいな流れが単調にならなくてよかったです。
バトル漫画原作ものって、そのままやると日常!敵出た!えいやー!やられたー!みたいなのの繰り返しになるので飽きるんですよね。スーパーの屋上でやってるヒーローショーを2時間延々見せられてるみたいな感じ。
あと淡々と原作どおりに話進めていくとのんべんだらりになるところ、歌入れることで緩急付けてるのもいいなと思いました。

 

舞台装置はまずセットがよくて、会場入った瞬間おおっ!と思いました。作品ロゴとか技の形とかをイメージさせる形。上手の裾が坂になってるのナイスアイデアです。
そして襖(?)凄かったですね!!ありとあらゆるところですごいスピードですごい回数登場して、工数が多い……って白目剥いてしまいました。そのほかにも、もうありとあらゆる手段を使って原作の呼吸の技や血鬼術や鬼自体やなんやを表現していて、よくこれだけ考えてやり切ったなと思います。出ハケとかどの人をどう動かすかとかの段取りの数を想像するだけでも、口から泡吹いて倒れそう。頭が下がるばかりです。
できる限り映像ではなく演劇的手法を使うという意気があるのすごいし、それがあるからバトルシーンががのっぺりせずに済んでるんだろうなと思います。

 

あとまあ好みかとも思うのですが、人物の映像はダサい。背景とかは全然いいんですけど(あれだけ場面変わると映像使わないとわかりにくいし)、人間の映像がちょっと……個人的にはシラケます……。
せっかくセットに上段があるんだからそこにその人物の衣装着せて立たせてスポット当てればよかったんではと思ったんですが、あの少人数で回してるんだから着替えとかで厳しいのかな。
諸事情で無理だったんなら映像屋さんに垢抜けてもらうしかないけど、じゃあどう変えたらいいのかと言われるとよくわからなくて悔しいです。わからないのに言うなというね。

 

内容的には、原作の取捨選択はすごく考え抜かれてて適切だなと。
その中でも、炭次郎の手を「子供の手ではない」と珠世さんに言わせてたりして(原作でそのセリフが出る部分は舞台では丸々カットされてる)、そのセリフは流れ上スルーしても問題ないのに、脚本書いた人はこれが大事だと思ってわざわざ組み入れたんだなーと思えて、そういう読解の跡みたいなのがわかるのも楽しかったです。漫画でもずっとボロボロに描かれてるもんね、炭次郎の手。

全体としては若干細かく整合性整えすぎというか、もっと勢いで流せるところは流してもいいんじゃないかと思ったんですけど、原作準拠ものだからこれでいいのかなという気もします。まあ単に私の好みとは微妙に塩梅が合わないだけということで。

 

舞台版の世界観

単に演出上の物理的な都合を私がそう解釈しちゃっただけかなとも思うんですが、しょっぱなから「ここは残酷無情の鬼の世界ですよ!!!」と宣言されたので(正確に言えば無惨が始まりである世界、という感覚だけど)それが面白すぎてテンション上がったし、世界のとらえ方が思ってたよりシビアでちょっと泣いちゃいました。
世界の道理は鬼のほうにあり、人間は喰われ喪われるのが前提の世界。

冷静に考えれば私の原作の受け取り方が甘かったなとは思うんですけど、舞台の鬼滅の世界は私のイメージより、何もかもが喪失から始まっていました。
鬼滅世界では鬼の存在が広く認知されてはいないみたいなので、あの世界の人たちは周りの誰かが鬼に喰われて初めてこの世界が鬼の世界だったことを知るんですよね(全員がそうではないけど)。そういう意味で、世界は常に喪失から始まるわけです。そしてそのあとも、鬼に喰われ殺されてどんどん喪っていく。そんな圧倒的理不尽や不利を強いられて、世界は哀しみと諦念に満ちていて、でも生まれて生きてしまっているから、歩くしかない。

なら鬼の側はどうかっていうと、鬼に対しても描き方はシビアだったなと思っていて。
個人的に鬼は哀れな悲しい生き物というイメージが強かったんですけど、この舞台の鬼たちは悲劇のヒーローではない。異能があって強いだけで、結局等身大の生しか持ち合わせていない。何の因果か鬼になって、記憶をなくして、人だったのに人を喰って生きてて、でも結局それも無惨一人の気分で吹き飛ぶような生で。

鬼と人間、そこにはなんの大きさの差異もなく、ひとりぶんの悲しみとひとりぶんの悲しみがあるだけ。
そういう根底にある空気感、シビアさとか欺瞞のなさがこの舞台の色だなと思いながら見ていました。

 

あと、舞台では人間が目の前で死んだりそれを悲しんだりするからか、人ひとりが死ぬことの事実が重いな、というのも感じました。この作品は家族が死んだとか仲間が死んだとか、複数形の死が描写されることも多いんだけども、それは決して複数形ではなく一人と一人と一人と一人の死なんだなと。喪ったひと一人ひとりに対しての思いを無数に積み重ねて、この世界の人たちは生きてるんだなあ。

 

キャストさん

炭次郎の小林さん大変すぎ!!!!本当に出ずっぱりの喋りっぱなし動きっぱなし。殺陣ありアクションあり歌あり。なんかもう立ってるだけですごい。
しかも休演日ないでしょ……いくら東京公演9日間くらいとはいえそんなことある?一日くらい休み入れてよ……。
小林さん、これからの方なんだろうという感じで(違ってたらすいません)ここはもっとこうだといいなあと思うこともたくさんあったんですけど、でもなんか好きだなあと思いました。
人が良くて一生懸命で真剣で凡庸で、でもまるで慣性みたいに諦められないから、心臓が張り裂けようが血反吐を吐こうが立って戦うしかない炭次郎。
原作の炭次郎は私のイメージだとサイコ宇宙人なとこあるんですけど、小林炭次郎にはそれがすっぱりなく、なんか身近にやさしくて苦しくてそれがよかったなあと思います。
まあ公演時間二時間半くらいほんとにずっと見てるので情がわいたのかもしれないんですけど、それも人徳ということで。

 

禰豆子ちゃんのあかりさん、今回見つけた期待の星ナンバーワンです。セリフがなくて、しかも鬼という難しい役ではあったと思うんですけど、まったく情報量を落とさないしむしろ雄弁なくらい。禰豆子の芯の通ったところが抜群に出てたと思います。
事前に動ける方だと評判聴いてたんだけど、アクションすごかったな!ちっちゃいねずこの動きも、ちょろちょろしたりててっと歩いてるのがとってもかわいい。すごくかわいい。かわいいけどやっぱり戦うときの迫力が最高にカッコよくて、次作以降のガチアクションめーーーっちゃ見たいですね!!!

 

植ちゃん様はガチで植ちゃん様~~~!!!って感じでした。さすがの技術職というか、やっぱりシルエットをバシッと決めてくるし、あの声なりテンポなりよくあそこまでアニメに寄せられたよなあ。ああいうものを見せられると次元の境目がゆがんでいく……。出てきたとき客席の空気が「!?!?」みたいになったのすごかったです。あと歌えるの存じ上げなかったのでびっくりしました。すごく綺麗な声でした。
あ、全体的にキャストさんたちの歌のレベルにはばらつきがあったんですけど、演出として使われるのに気になるほどではなかったです。ミュージカルじゃないですしね。

 

ヒデ様無惨の話は上でもしたんですけども、この役に必要とされる存在感がありありのありで楽しいです。声も通るし歌い方も一人で勝てる!!って感じ出てて、イヨッ鬼の大将すべての元凶!!今日も理不尽!!ってコールしたいです。メインテーマ曲のときも目立つし、ほんとこういう役で見るの良き。パワハラ会議めっちゃ見たいな。

 

あとは長くなるんで割愛しますが、アンサンブルさんのやる役(というかメインキャストの兼ね役も多かったと思いますが)も作りこまれてて、違和感なく原作の世界だったと思います。出番が少なかろうが端役だろうが、相当隙なく作られててすごい。

 


ということでいろいろ書いたんですけど総じて楽しかったですね!!

今回は序盤の導入部分だけど、原作でも柱が出てきてから盛り上がってくるところもあるし、内容的にも末満さんぽさが映えそうだと思うので次作以降にすごく期待しています。あるよね次作。
まあ長期連載3本抱える脚本演出家とは……って感じではあるんですが。末満さん健康に長生きしてほしいです(人の健康を私欲で祈るな)。

 

ハア~でも私しのぶさんとカナヲちゃん師弟が大好きで、今回も姿だけのカナヲちゃん見ただけでちっちゃい細いかわいい強いぞ!!(うちわ激振り)って気持ちが爆発してしまったので、あの仇討ち戦とかみたら情緒爆発してしんでしまうな……。